土屋作庭所通信

平成30年初夏号

2018年09月10日

土屋作庭所通信 平成30年初夏号

強さの魅力

美術館や博物館に時々出掛けます。絵画、彫刻、工芸、書など。建築や庭を見に行くこともあります。その動機は時によりさまざまですが、多くの場合「いいものを見たい」あるいは「いいと言われるものを見ておきたい」ということになります。そして、「いいもの」に巡り会うことができれば驚嘆したり、感動したり、見識が広がり可能性や喜びの幅が広がったような気持ちになります。そこまでいかなくてもちょっと安心したり、楽しめたり、実務として参考になることがあったりすると「来て良かった」となります。さて、ここで問いたいのは「いいもの」とは何でしょうか?

社会的に評価の高いものも「いいもの」でしょうが、ここでは個人的に「いいもの」つまり好き嫌い、合う合わない、という話です。「いいな」という感情に理屈はありませんが、何故「いいな」と思ったのか、その作品のどこに魅力を感じたのか。少し掘り下げてみると、色が良かった、線が綺麗だった等々。いずれも言葉足らずな感じですが自分がどこを見て、何に魅力を感じていたのかがわかります。そして、この時に作品の持つ「強さ」を感じて、そこを評価していることがあります。思い切りの良さ、鋭さ、荒々しさなど。この強さという評価は作品をみる中で大事なものではないかと思っています。荒々しいから強いというものでもなく、繊細だから弱いというものでもありません。その作品に宿る力と言えば良いでしょうか。その力に触れた時、その作品は私にとって少なからず魅力のあるものとなります。

 

強い庭?

さて、庭です。庭にもその強さを求めるべきでしょうか?強さに魅力を感じる私ですが、自分が作る庭に、私は強さを求めてはいません。私の任ではないと思っているからです。私が強さを感じた庭を幾つか挙げてみますと、観音寺(徳島市)、西芳寺の洪隠山、円通寺、東海庵方丈南庭など。筆頭の観音寺は本堂の裏にある巨大な岩盤を取り込んだ庭でその迫力たるや他に例を見ません。西芳寺の洪隠山は急斜面にある石組みで、これは本当に人の手によるものだろうかと見紛うほどです。円通寺の石組みも広大な平庭での潔い石の扱い方に感服します。東海庵方丈南庭は現実の強さというより精神的な潔さを感じます。いずれ劣らぬ素晴らしい庭とは思います。でも私が作る個人宅の庭に、その強さは必要ないと思うからです。

休みの日に先に挙げたような庭を見に行くのは幸せなことです。ただ、その強い庭が自宅にも欲しいと思うでしょうか?もちろん欲しいという方もおられるでしょうが、毎日見るのは少々辛いものと私は思います。日常とは毎日のことで、非日常は必要ないのです。個人住宅の庭、住まいの庭は日常に添った穏やかな普通のものが良いと思います。

 

弱さ

木工デザイナーの三谷龍二さんが「弱さ」について書かれた文章が印象的でしたので紹介します。(「すぐそばの工芸」講談社より)ここで「弱さ」とは日本人の感じる美意識として扱われています。「確かなものでも、強いものでもなく、そうした壊れやすく、失われやすい弱さのなかに豊かさを見つけてきたのが、日本人の特性」であると。「工芸はもともと日本の家で使われるものであった。これは、当たり前のことで・・・普段使いの生活品には・・・素材に最低限手を加えた簡素なものや、必然に沿った誠実な形があればそれで十分だったはずなのです。」しかし、近代化の流れのなかで、工芸にも強さが求められ、「大作主義、技術至上主義を目指すようになってからの工芸は、いつの間にか人々の暮らす場所を離れ、社会からも離れていった」そして今、「そんなに無理する必要のない平熱の時代が訪れると、自分たちの肌に合うもの、素直に喜べるもの、真に自分たちの暮らしから生まれてきたものを作りたい、という気持ちが今僕たちのなかで起きている」と。工芸に携わる作家、職人さんの心の動きを辿ったものですが、この流れは庭についても全く同じだと感じています。

 

普通の庭

では、普通の庭とは何か。三谷さんのいう「弱さ」を美しいと感じる日本人の生活に沿う庭とは何か。それも、先に挙げた文に書かれています。「必然に沿った誠実な形があればそれで十分」なのです。雨が降ってぬかるんでは歩きにくいから石を敷いて歩きやすくする。斜面にあっては石を積んで土が流れないようにする。まずこの必然が大事です。ただ、必然だけだと庭としては少し寂しい。私は「庭は楽しみ」だと思っていますので、必然に楽しみを加えます。地面を穏やかにならして、目にやさしい緑を植え、好きな花を育てる。景色を整えたければ背景にも気を配ります。ただ、気をつけるのは、その一つ一つが建物に沿い、目に馴染み、そして、作りすぎないこと。穏やかで何気ない緑の庭。これが個人宅に求められる普通の庭だと考えています。 

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